ドリカムにとってのニューヨーク、そして最新アルバム制作までの道のりを聞いた前編につづいて後編は、いよいよアルバム制作の中身に足を踏み入れます。タイトルの話、アートワークの話など、アルバムを聴く前に読めば、冒険の旅もより魅力的なものになるはず。
「ひどい冒険の旅だよね(笑)」(中村)
「うん、でもいいんじゃない?楽しいこともいっぱいあるし。
嬉しいこともいっぱいあるし」(吉田)
アルバムの全体像については、どのあたりの段階で話し合われるんですか?
-中村 早かったよね。
-吉田 それは毎回早いですね。だいたいどんな方向に向かって、どんなふうにしていこうかっていうブループリントみたいなのは最初に話しますね。で、今回はすでに発表していた4曲(※制作段階で)があったので、それも踏まえた上で自分たちがどんなふうなものを作りたいか、どうやっていきたいかということを話して、じゃあこんな曲はどうだろうか、こんな曲もやりたいんだよねって意見を出し合って、それを基にどんどん始まっていくんですよ。
-中村 そうだね。だからすでに発表している曲も、そのブループリントに沿って、いろいろ変えたり足したり。
-吉田 時にはやり直したり。
-中村 もちろんミックスはし直しますけどね。こういうインタビューでは何度も言ってますけど、アルバムって一体何なんだってユーザーが言う時代に、僕らはアルバムという形をとって、CDという媒体を使って1枚の絵を描き上げるように作るんですよ。だから、お仕事いただくたびに発表させていただいたシングル曲はあるんですけど、それがアルバムのためって考えると、楽曲は一緒でも意図が変わってくるんですよね。シングルで発表したものはその時々で作った意図があるし、もちろんクライアントもあるし。その時、そのきっかけを使ってみなさんに伝えたいものはシングルなんだけど、アルバムになるとアルバムとして伝えたいうちの1曲になるので、やっぱりいろんな意味で変わってくるというか、変えなければいけない。これはけっこう手間なんですよね。新録もしてありますしね。
タイトルの『THE DREAM QUEST』というのはブループリントの段階からあったんですか?
-中村 最初からあったよね?
-吉田 まあまあ早い段階から。
-中村 吉田さんが考えたので、そのことについては吉田さんがお答えします。
-吉田 “ドリクエ”って言いたかったんです。
-中村 あはははは。
-吉田 “ドリクエ”って言いたかったの(笑)。最初に発表していた4曲も含めて、次の「WONDERLAND」が30周年というのがあって、そこまでは振り向いている時間はないし、走るって決めてずっとやってるんですけど--それも相まって、まだまだどこかに行く途中なんだなって実感がすごくあるんですよね。だからぴったりだなって思いました。
-中村 音楽産業的にもクエストの最中なんでね。
たしかにそうですね。
-中村 音楽はもうタダでみなさんにお配りするというのが大前提に近くなってきているので、クエストですよね。
ドリカムの歩み自体もずっとクエストでしたよね。
-吉田 はい。
-中村 ひどい冒険の旅だよね(笑)。
-吉田 うん、でもいいんじゃない? 楽しいこともいっぱいあるし。嬉しいこともいっぱいあるし。
-中村 そうですね。
とてもいいタイトルだと思いました。
-吉田 ホント? やった(パチパチ)
「アートワークは、音楽的にもすごく役に立っているんですよ」(中村)
「一昔前だったらありえないような組み合わせというか、
そういうのを合わせてみたかったんですよ」(吉田)
前作『ATTACK25』からアートワークとの連動が続いていますよね。この新作アルバムに関してもまた--?
-吉田 そう。『ATTACK25』で味をしめちゃったんです(笑)。ほんとにあのキャラがいてくれるだけで、いろんなことがすごい広がったんですよね。何かをひとつ作るにしても、何かにポッと出すにしても。あの、なんだっけ? おへそ押したらもう1コ出てくる……「キテレツくん」じゃなくて「パーマン」?
-中村 鼻じゃない? 押すの。
コピーロボットですね。
-吉田 あ、そう! わたしたちに代わってどんどん活躍してくれるので(笑)。
-中村 あとはツアーとの連動ですよね。
-吉田 そう。それもすごく楽しくなるし。今回はもうちょいキャラも--。
-中村 増やしてね。
-吉田 それも想定に入れてツアーに出て、これもできるな、こんなことも面白いなっていうこともやって、いろいろなキャラクターたちが出てきたり。
-中村 ドリカムGOみたいなね(笑)。
-吉田 ドリGO。
-中村 我々がデビューした約30年前とはちょっと違って、今はありがたいことに、みなさんが知っている曲を我々は求められるので、なかなか新しいコンセプトの曲のライヴだと、「あ、知らない曲ばっかりか」っていうところからになるんですよ。そのためにもアルバムのアートワークや、アートワークと同時に生まれた世界観があれば入りやすいと思うんですよね。そういうことを『ATTACK25』から「WONDERLAND」「ウラワン」と展開してきたので、今回もまた新しいアートワークを打ち立てていきます。音楽的にもすごく役に立っているんですよ。アートワークを見ながら、こうしようというふうに発想が生まれることも多いです。たとえば今回のオープニングテーマも、『THE DREAM QUEST』というタイトルがあって、そこからインスパイアされたアートワークが上がってきて、なるほど、じゃあ音もこうしたいなっていうようないいサイクルがあるんですよ。
たしかにアートワークによる間口の広さというのはありますね。
-中村 僕はゲームというか劇伴もやっていたので、絵があるとすごく発想が自由になるんですよ。
今回のアートワークはまずどうしたいというのがあったんですか?
-吉田 何年か前に旅行した時に見た1枚の絵があって、その雰囲気がすごくぴったりのような気がしていたんです。それをみんなにネットで見てもらって、どんどん発想を膨らませていったという感じです。
-中村 ドリGOっていうコンセプトもあったので、いろんなモンスターというかキャラクターも作りたいなということにもなっていきました。
-吉田 ほんとに一昔前だったらありえないような組み合わせというか、そういうのを合わせてみたかったんですよ。
-中村 やっぱり今、たとえばファッションの世界でも、大御所のハイブランドがストリートで使われている手法を取り入れたりしているので、そういう姿勢が面白いなあと思いますよね。
-吉田 うちらが大御所って言ってるわけじゃないでしょ?
-中村 そうです。そういう意味ではありません。
(笑)。じつはさきほどジャケットを見せていただいて、まずパッと目に付いたのはカラフルさでした。
-中村 あ、それもありますよね。
-吉田 「ウラワン」の次だから、ものすごく色を使おうって決めたんです。
-中村 「ウラワン」はモノトーンだったからね。
お二人が石像といいますか……。
-中村 黄金の像になってます(笑)。
-吉田 あれは何だろう。名もなき旅人なんですよ結局。なんてことないね。でも彼らは彼らなりの何かを求めているんですね、きっと。
石像になったお二人の姿に、すごくポップスを感じました。
-中村 へー、ありがとうございます。
もうちょっとアートワークについて突っ込んでいいですか?
-吉田 うん、どうぞ。
どうしても今回のキャラクター「十二音使徒」が気になっているんですけど。なぜ、12なんですか?
-吉田 最初は、12曲収録予定だったから、まず12のエレメントを決めようって言ってグラフィックのチームと一緒に話し合ったんです。たとえば「木」だとか「石」だとか「時間」だとか「愛」だとか、そういうのをいっぱい出したんですよね。で、こういうのがいいねって選んでいって、残った12のエレメントが曲ともなんとなく連動してきて、プラス、それが形を持つと、ああいうキャラクターになっていったっていう感じです。
-中村 でも13曲になっちゃったんですけどね(笑)。
-吉田 「OVERTURE」がついちゃったから。
-中村 はははは。
なるほど(笑)。彼らは曲と結びついているんですね。そこはライヴも含めて楽しみですね。
-中村 そうですね。
「(曲順は)いつも早くから考え出してあーでもないこーでもないって
すごい悩むんですけど、今回は最後の前の日だったかな?」(吉田)
「恐ろしいことに、前倒しでミックスが終わったんですよ。
スケジュールがないとか言っていながら」(中村)
アルバムの曲順が一昨日、ニューヨークで決まったと聞きました。
-中村 はい。決まりました。
『ATTACK25』では、既発曲と新曲が、A面B面という具合にパキっと分かれていましたよね。今回は、いい感じのミルフィーユ感といいますか。
-中村 ああ、シングルとのバランスがね(笑)。
-吉田 そうかそうか、そういうことか(笑)。
曲順は相当悩まれたんですか?
-吉田 ううん。すっごいパッと決まりました、今回は。いつも早くから考え出してあーでもないこーでもないってすごい悩むんですけど、今回は最後の前の日だったかな?
-中村 恐ろしいことに、前倒しでミックスが終わったんですよ。スケジュールがないとか言っていながら。1日半前倒しで。で、全部仕上がったものを並べてみる時間がスタジオであったんだよね。
-吉田 うん。曲目のカードというか切れっぱしを作って並べてみたんです。
-中村 (笑)。
-吉田 こんなのどうだろうって、途中でぽぽっと入れ替えてみたりして。そしたらもう決まっちゃったんです。
-中村 それを並べて聴いてみたら、一発OKだよね。
-吉田 うん。
そんなことって珍しいんですか?
-吉田 珍しいですね。
-中村 うん。
-吉田 けっこう闘いが毎回あったりするので。
-中村 (苦笑)。
ニューヨークでの作業はスムーズだったということですか?
-中村 スムーズでしたね、はい。やっぱりヴォーカル・レコーディングはちょっと難しいこともありましたけど。ミックスに関してはスムーズで、1曲はやり直してますからね。はじめは間に合わない間に合わないって焦ってたのに(笑)。
-吉田 ね。
-中村 実質は3日半巻いたのかな。だからもう1回やり直して。それで完成したので、アルバムとしての完成度は高いと思います。
その要因はなんだったんでしょう?
-中村 ミックスって必ずゼロからなんですよね。チームが固まってても。ましてや3年も空いてると、ミックスが不器用になってくるんですけど。ま、やってるうちに。エド(・トゥートン)ってエンジニアが非常に僕らと人間的に似ているので、すごくやりやすいんですよ。
-吉田 人間的に似てるっていうのは--。
-中村 仕事の仕方が似てる。呼吸が合うんです。
-吉田 そう。
-中村 もう10何年やってるんで。彼がちょっと行き詰まると、僕がミックスをはじめて、彼が時間を作って。僕がミックスしている間に彼が客観的に聴きながら、また戻ってくるという。その間、吉田はずっと僕らの動きを冷静に見てるんで。さきほどの質問の「スムーズにいった要因」は、つまるところチームワークだよね?
-吉田 うん。
-中村 すごく有効に時間が使えてるという実感がありますね。僕らがミックスに没頭している間に吉田がごはんを考えてくれたり、僕の日用品を買い出しに行ってくれたり。
-吉田 わたしがなんか何にも仕事してないみたいな発言じゃないですか、それ?
-中村 そう? 仕事してますよ。コマンダー・イン・チーフ、総司令官ですからね。これ嘘抜きで。やっぱり吉田があそこのスタジオにいるだけで全然違うもんね。いるだけじゃないんですよ。
-吉田 なんかさっきから引っかかるねえ(笑)。
-中村 まあレコーディングの時はほとんどいませんからねえ。あれ、こんな音入ってたの?って、すごい段階で言われたりしますから(笑)。
-吉田 レコーディング中はわたしも(歌詩の)制作中だからでしょう。
-中村 はいそうですね、すみません(笑)。
(笑)東京でスケジュールがないって追われていたことを考えると、ニューヨークでの作業がとても充実していたことがわかりました。
-中村 変な話、制作だけに集中できますから。
-吉田 他のことがないもんね。たしかに。
制作に打ち込めるという意味でも、やっぱりDREAMS COME TRUEにとって、ニューヨークは特別な街ですね。
-吉田 そっか。そうですね(笑)。
-中村 またこの街で新しいアルバムが生まれましたね。この作品がどういうふうにみなさんに届いて、広がっていくのか、本当に楽しみです。
アルバム完成ほやほやのタイミングでのインタビュー、ありがとうございました。
-中村&吉田 ありがとうございました。
DREAMS COME TRUE
『THE DREAM QUEST』
2017.10.10(火)発売!全18曲 3,000円(税別)
インタビュー/文:谷岡正浩 写真:MARK HIGASHINO
衣装協力:MSGM /アオイ Calvin Klein Platinum Dr.Martens